ローカルネットワーク許可とは何か
iOS 14(2020年)から、Appleはアプリが家庭内LANへアクセスする際にはユーザーの明示的な同意が必要という新しいプライバシー保護枠組みを導入しました。
アプリが初めてLAN上の機器をスキャンしようとすると、iPhoneは次のようなダイアログを表示します。
「◯◯がローカルネットワーク上のデバイスを見つけて接続することを許可しますか?」
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許可/許可しないをその場で選択でき、後から
設定 → プライバシーとセキュリティ → ローカルネットワーク
でアプリごとにオン/オフを切り替え可能です。 -
許可しない場合、アプリは同一LAN上の機器を検出できず、該当機能が制限されます。
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目的は、アプリに機器名・MACアドレス・稼働サービス名などを無制限に渡さないようにし、ユーザーが「本当に必要か」を判断できるようにすることです。
背景:iOS 14でのプライバシー強化
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WWDC 2020で発表されたLocal Network Privacyにより、BonjourやmDNSを利用する全アプリに
NSLocalNetworkUsageDescription
キーの実装が義務付けられました。 -
これにより、アクセス理由をわかりやすい日本語でユーザーへ提示しなければならなくなり、同意の質が向上しました。
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2024〜25年に報告された「許可ステータスの同期不具合」は、**iOS 18.6(2025年7月)**のセキュリティパッチで修正されています。
LINEが許可を求める主なシナリオ
シナリオ | 目的 | 許可しない場合に起こること |
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LINE Pay端末検出 | 店舗の決済端末とBluetooth/LANで即時通信し支払いを高速化 | QRコード読取が遅れる/端末を認識できない |
スマートデバイス連携 | LINE ClovaスピーカーやIoT家電をLAN経由で制御 | 「デバイスが見つかりません」エラー |
ビデオ通話のP2P最適化 | 同一Wi-Fi内での通話をルーター内で完結させ遅延を低減 | すべての通話がサーバ経由になり遅延増 |
ポイント
すべてのLINE機能に必須の権限ではありませんが、端末間ダイレクト通信を高速・低遅延で行う目的で利用されます。LINE公式ヘルプでも「許可しないと周辺機器の検出に失敗することがある」と明記されています。
許可・拒否のメリットとリスク
許可するメリット
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LAN機器連携がフル稼働
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AirPrint印刷、Chromecastキャスト、決済端末検出などがスムーズ。
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通信遅延とモバイルデータ消費を削減
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通話やデータ転送がルーター内で完結し、クラウド経由より高速。
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拒否するメリット(=許可のリスク回避)
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プライバシーを最大限保護
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アプリに家庭内機器情報を渡さず、プロファイリングの足掛かりを減らせる。
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潜在的な攻撃面を縮小
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悪意のあるアプリがLANをスキャンして得られる情報を最小化できる。
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許可に伴うリスク
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悪意のあるアプリが機器情報を収集し、個人を推測するプロファイルを作成する恐れ。
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OSやアプリの不具合でキャッシュが残り、意図に反して通信が続く可能性(iOS 18初期ビルドで報告済み)。
iOS 18.6対応:設定を確認・変更する手順
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設定アプリを開く
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プライバシーとセキュリティ をタップ
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ローカルネットワーク を選択
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アプリ一覧からLINEを探し、スイッチをオン/オフ
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切り替え後はLINEを再起動すると確実(18.6以降は即時反映されるよう改善)
許可・拒否を見極めるための 3 つのチェックポイント
① 開発元の「信頼性スコア」を確認する
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公式ストアに登録されているか・署名は有効か
App Store に並ぶアプリは審査を通過しているものの、LAN スキャンの詳細まではレビューで網羅しきれません。「提供元」「バージョン履歴」「外部のユーザーレビュー」を必ずチェックしましょう。 -
NSLocalNetworkUsageDescription
の文言を読む
初回アクセス時、iOS はこのキーに記載された説明を通知バナーで表示します。
“プリンター検出のため” など 具体的な理由が書かれているか が最初の判断基準です。 -
最近のアップデート頻度と脆弱性(CVE)への対応状況
iOS 18.6 ではローカルネットワーク権限キャッシュの不具合が修正されました。更新が止まっているアプリは、こうした OS 変更に追随していない恐れがあります。
簡易スコアリング例
公式 FAQ やリリースノートで LAN アクセス理由を明示 +2点
開発者サイトにプライバシーポリシーを掲載 +1点
最終アップデートが1年以上前 -2点
② 要求される機能との「関連性」を見極める
代表的な機能 | ローカルネットワーク許可は必須? | 該当する代表的アプリ |
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LAN プリンタ印刷 | 必須(AirPrint は mDNS で機器検索) | 写真印刷アプリ など |
Chromecast へのキャスト | 必須(マルチキャスト DNS で端末照会) | YouTube/Netflix |
LINE Pay 端末検出 | 必須(Bluetooth↔LAN ブリッジで即時決済) | LINE/LINE Pay |
完全クラウド型メモ帳 | 不要 | 単機能メモアプリ |
実践的な確認手順
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まず 「許可しない」 で使ってみる。
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印刷・キャスト・決済などが動かない場合のみ、対象アプリだけ許可をオン。
設定場所:設定 ▶ プライバシーとセキュリティ ▶ ローカルネットワーク
ここでスイッチを即時切替できます。
③ プライバシーポリシーと代替手段を比較する
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収集されるデータ範囲
LAN スキャンで拾われるのは「デバイス名・IP アドレス・サービス名」など。悪意あるアプリなら家庭内機器構成を分析し、ターゲティング精度を高める材料にしかねません。 -
P2P 最適化とセキュリティリスクのトレードオフ
たとえばビデオ通話をルーター内で完結させれば遅延は減りますが、同時に 未認証パケット注入 のような攻撃面も広がります。 -
代替ワークフローの有無
Chromecast が使えないなら AirPlay、コードレス HDMI アダプターなど 許可が不要な別手段 を紹介できるかも判断ポイントです。
リスクとメリットを天秤にかける早見表
観点 | 許可する | 許可しない |
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速度・利便性 | LAN 内転送で高速・低遅延【◎】 | クラウド経由で遅延【△】 |
プライバシー | 機器情報を渡す可能性【△】 | 収集を最小化【◎】 |
セキュリティ | 攻撃面が増える恐れ【△】 | リスクを抑制【◎】 |
機能制限 | すべての機能を利用可【◎】 | 印刷・キャスト等が不可【×】 |
許可ステータスを後から見直す手順(再確認)
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設定アプリを開く
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プライバシーとセキュリティ → ローカルネットワーク
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アプリ一覧から対象アプリのスイッチをオフ
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iOS 18.6 以降はキャッシュも即時クリアされますが、念のため アプリを一度終了→再起動 すると確実です。
3ステップを習慣に
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ポップアップの説明を読んで 具体的用途を理解(不明なら拒否)。
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機能との必然性 を確認し、不要なら拒否、必要になったらオンに切り替え。
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プライバシーポリシーと更新頻度 をチェックし、信頼性をスコア化。
このフローを実践すれば、ローカルネットワーク許可が本当に必要な場面と避けるべき場面をはっきり区別でき、安全と利便性を両立できます。
よくあるトラブルと症状 ─ 症状別のチェックポイント
1. LINEビデオ通話が途切れる・遅延する
症状
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自宅のWi-Fiで友人とビデオ通話中に映像が静止したり、音声が途切れる。
原因
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LINEは遅延を抑えるため、同じLAN内ではサーバーを介さず**ピア・ツー・ピア(P2P)**で直接通信します。
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ローカルネットワーク許可を拒否すると、通信経路がすべてLINEのクラウド経由になり、遅延や途切れが発生します。
解決策
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設定 → プライバシーとセキュリティ → ローカルネットワークで、LINEのスイッチをオン。
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LINEアプリを完全に終了し、もう一度起動してキャッシュを更新する。
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※iOS 18.6以降は再起動なしでも反映されるよう改善されています。
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2. Chromecast にキャストできない
症状
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「キャスト先が見つかりません」と表示され、テレビやスピーカーが検出されない。
原因
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ChromecastはBonjour/mDNSで同一LAN上の端末を探索します。
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該当アプリ(YouTube、Netflixなど)がローカルネットワーク許可を持たないと、キャスト先の発見に失敗します。
解決策
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YouTubeやNetflixなどキャスト元アプリのローカルネットワーク許可をオン。
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まだ見つからない場合は、ルーターの**AP分離(2.4 GHz/5 GHz分離)**を無効にし、LANブロードキャストを許可。
3. AirPrintでプリンターが表示されない
症状
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「プリンターを選択」画面が空白、または “No AirPrint Printers Found” と表示される。
原因
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AirPrintは
_ipp._tcp
などのサービス名をBonjourでブロードキャストします。 -
ローカルネットワークを拒否すると、このブロードキャストが受信できません。
解決策
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iPhoneのローカルネットワーク許可をオンにした後、iPhoneとプリンターを再起動してmDNSキャッシュを再生成。
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仍然表示されない場合はプリンター側でIPv6やWireless Directをオフにして再テスト。
4. LINE Pay端末を検出できない
症状
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店頭決済時に「端末が見つかりません」「QRが読み取れません」と表示される。
原因
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LINE PayはBluetoothとLANを橋渡しし、レジ端末を自動検索します。
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LAN許可がないと端末検出・ペアリングが失敗します。
解決策
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ローカルネットワーク許可をオンにしてから、LINE Payタブで「端末を再検索」。
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店舗側のタブレットやレジが同じSSIDに接続されているか確認。
5. 許可をオフにしたのに通信できる/逆に復帰しない
症状
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許可を切ったのに通信が続く、あるいはオンに戻してもつながらない。
原因
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iOS 18初期ビルドで報告された権限キャッシュの不整合(FB14321888)。
解決策
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iOS 18.6以降へアップデート。
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なお残る場合はiPhoneを再起動し、キャッシュを完全消去。
許可をオフにした後の共通チェックリスト
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iOSは最新版か ― iOS 18.6以上に更新済みか。
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設定画面を再確認 ― アプリ横のスイッチが意図した状態か。
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同じSSIDか ― iPhoneと周辺機器が同一ネットワークにいるか。
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VPN/セキュリティアプリ ― マルチキャストを遮断していないか。
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ルーター設定 ― AP IsolationやIGMPスヌーピングが有効になっていないか。
詳細解決フロー(How To)
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許可状態をトグル
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スイッチを一度オフ→オンにして、アプリ(LINE、YouTubeなど)を再起動。
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ネットワークリフレッシュ
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設定 → Wi-Fi で一度切断→再接続。
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キャッシュクリア
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iPhoneを再起動、または「ネットワーク設定をリセット」(要パスワード再入力)。
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デバイス側リセット
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プリンターやChromecastを再起動。
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最終手段:アプリを再インストール
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削除→再インストールすると、
NSLocalNetworkUsageDescription
が再度表示されるので改めて許可。
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これらはApple公式サポートとGoogle Castヘルプが推奨する基本的なトラブルシューティング手順を統合した復旧フローです。
まとめ ─ 症状別“最短復旧ルート”を覚えておこう
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通話・キャスト・印刷・決済で発生する不具合の多くは、根本的に「LAN内デバイス探索」に失敗しているだけ。
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iOS 18.6未満ならOSアップデート→再起動が最優先。
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設定を切り替えた後はアプリと周辺機器を再起動し、キャッシュを更新。
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企業VPNやルーターのブロック設定が原因の場合も多いので、ネットワーク環境も必ず確認しましょう。